およそ半世紀前から心の隅に居座っていたアイデア...
それはギターの弦から直接信号を拾って実用レベルまで引き上げられないか? ということ。
簡単に言ってしまえば、弦の下にマウントされているピックアップの位置に磁石を置いて スティール弦から直接 信号を引き出すということ。
アメリカのパテントを調べると案の定 過去(1978年)に特許申請がなされていた、しかしこの申請は 机上で書き上げたことが中心と思われる内容だった。
私は最初に、S/N比で不利になる電子回路は使わずに何とかしたいという思いがあり試作をはじめた。
信号は小さすぎるため、トランスで増幅させなければならない。この時 インダクタンスと静電容量が介在するので一般的なピックアップと類似した音声信号となり ペラペラな素っ気ない音色が豊かなものへと変化する。
はじめに試したアルニコマグネットでは信号出力が小さく実用レベルではなかった。
強磁界のネオジム磁石を弦に近づけるとそれなりに信号は大きくなるが、磁束密度が高すぎて弦の振動が抑制されてしまいサスティーンの少ない音になる。
低音弦ではアタック直後の振幅が不安定に揺れて不快。
さて、どうしたもんかとしばし考えあぐねる。
︙
しばらくして強磁界下でも実装できる方法を思いついた。
弦が振動していないときは磁力線はニュートラルの状態で弦に磁界の影響を与えない。振幅があったときに はじめて磁界の影響を受ける。
これだと、弦振動が小さい時ほど強磁界の影響は小さくサスティーンも抑制されない。
コロンブスの卵 的発想の転換といってしまえば それまでなんだけれど . . .
その前にU.S.パテントの参考資料を以下に。
U.S. Patent No.4,069,732 Jan. 24, 1978
参照 FIG. 5(磁石のマウント方法)
磁石は通常のギターマイクと同じ方向にマウント。
参照 FIG. 8(平均磁界)
25:弦(断面方向)
90 , 91:フェライト磁石
92:鉄
この配置で平均的な密度の磁界を得られるという。
私的考察
これが理屈通りに弦との距離に影響されずに磁界が発生していたとしても、所望の電圧を引き出すには至らない。(プリアンプを必要とする)
より大きな電圧を取り出すためネオジム磁石のような強磁界を与えても まだ足りないか、強磁界ゆえに弦の振幅やサスティーンに悪影響を及ぼす。
コロンブスの卵 的 . . . 解。
磁石どうしは反発し合う。強磁界でも弦が静止状態だと磁力線は 中点でほとんど均衡状態。
信号出力は奇数弦・偶数弦で180°反転。
各弦に接続するトランスは奇数弦・偶数弦で交互に逆接続。
トランスはハムバッキングピックアップの接続と同様に電磁ノイズは相殺され、信号の位相は統一される。
磁力線の強弱が濃淡となって現れる。
上図で使用したマグネット・アッセンブリ
配 線
【 #1〜 #6 の各弦にトランスの極性を交互接続、ここにコモンアースが繋る 】
トランス仕様
【 ST-14 】(ここに至るまで色々試した)
・インピーダンス
一次:500KΩ
二次:1KΩ
・直流抵抗
一次:6.2KΩ
二次:32Ω
・巻数比:22.4:1
実装例
トランス巻線機の製作
6弦分を一つのトランスにできないか? ということで自作した巻線機2号。(必要に迫られ 齢70にして、Pythonを勉強したっす)
マグネット・アッセンブリ試作(下図はフェライトマグネット)
フェライト、ネオジムマグネット 色々な組み合わせでやってみた。
棹の木工加工
コモンケーブル(共通線)の引き出し
6本の弦はヘッド(ペグ)側でコモンケーブルに接続されており、ケーブルはネックグリップ裏を通ってボディに引き出されている。
ネックの裏の中心線に沿って溝を掘り、ケーブルをパテ埋め。
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【下図】
ネックのチャンネル(トラスロッド)の下に見えているのがヘッド裏 → ネックから続くコモンケーブル。
この写真のブリッジではネオジム磁石を取り付け。
各弦の出力電圧の違いを磁石の長さを変えることでバランス調整を行っている。
#1〜#6 各弦のブリッジは電気的に隔離されている。
完成形
立ったまま 横移動だけで 弾き比べられるようにした固定台
Fender 真空管アンプの電源ノイズがひどいので、京王技研:KORG=VOXアンプのNutubeで音出し。
Fender pro Junior
Head 【 Nutube VOX / MV50-CL Clean 】
打 弦 機 (クリックで動画再生)
波 形 測 定 接 続 イメージ
PCでデータを取り込む以前は ストレージ・オッシロから写真に取り込み可視化していた。
我が物置の 作業スタッフ
思考が形になる場所
epilogue
で、どうなったかって?
電子回路による増幅に頼らずシングルコイルピックアップ程度の音量は確保できた。
単線と巻線弦の音量バランスを改善しきれなかった。(特に6弦)
1弦の音の伸びやかさは なかなか魅力的。
しかし #1 〜 #6 を通しての印象は、面白みが足りない。
極端なチョーキングで音量ヌケが起こる。
総合的に、なんかつまらん。
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きっかけは かれこれ50年前だから よく諦めずにやったもんだと自画自賛。
でも、楽器として使いもんにならなかったのは ちょっぴり心残り。
しかし、これら一連の作業を行なったことにより 新たな発想が生まれてきた。
現在はそのアイデアを具現化すべく作業中。
乞うご期待ってか?
二流のオリジナル、 一流のコピーより尊し。
ひとのマネはしねえダ。(笑